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2021.06.18

「今日から歴史は変わる」LGBT法案見送りを受けて記者会見【発言まとめ】

「LGBT新法」の提出は見送りのまま、16日に通常国会が閉会しました。
Equality Act Japanでは、今日、この間の法案や一部自民党議員による差別発言をめぐってさまざまな立場から声を上げた皆さんと共に、記者会見を行いました。

各登壇者の発言内容をまとめていきます。

※記者会見の映像はこちら

法案見送り、差別発言への謝罪もなし「大変遺憾」

五十嵐ゆりさん(一般社団法人LGBT法連合会理事)

通常国会が閉会し、我々が求めていた法制化は、今国会での提出が見送りということになりました。

国会での菅首相の答弁では、性的指向や性自認に関する理解の増進を目的として議員立法の速やかな制定を公約に掲げていることに触れて、国民のみなさんとの約束を果たすと答弁をしたにもかかわらず、法案の提出を見送ったということになります。

一部の議員による差別発言に関しても謝罪や処分等何もなされておりません。大変危惧しております。

この間の法律の動き、LGBT法連合会としてのコメントを合わせて申し上げたいと思います。すでにホームページにして声明を発出しています。

以下、LGBT法連合会の声明


国会は、6月16日に会期を終え、閉会した。この国会会期中に、超党派の「LGBTに関する課題を考える議員連盟」において、初めて法案に関する与野党の合意がなされるなど、大きな前進があったものの、法案の成立に至らなかったことはただただ遺憾である。当会が主催団体として展開したキャンペーン「Equality Act Japan−日本にもLGBT平等法を」が実施した署名には、国内外から106,250筆が寄せられ法制定に向けて国内外から大きなムーブメントが巻き起こったことは感謝に堪えない。一連のムーブメントに関わった全ての当事者等と大いに讃えあいたい。一方で、法案審査に係る一連の議論の中において、重大な差別発言や、バッシング、当事者の存在否定ととれる議論がなされていたと報じられたことには大きな怒りを持って、極めて厳しく受け止めている。

今国会では、かねてから野党が提出していた、いわゆる「差別解消法」に対し、自由民主党が4月にいわゆる「理解増進法」を取りまとめ、4月半ばから5月中旬にかけて、超党派の議員連盟において、与野党の法案の一本化に向けた論点整理と協議が行われていた。これにより、自民党案の「性同一性」を、既に多くの条例や国の指針、あるいは各分野の事典や教科書、国家試験において採用されている「性自認」に変更するとともに、「性的指向及び性自認を理由とする差別は許されないものであるという認識の下」という文言を法の目的、基本理念に加えるという修正で折り合った。

修正した法案は、不十分な点も多々見受けられるものの、当会としては辛うじて評価できる内容であった。基本理念に基づいた施策の実施を、国、地方公共団体、事業主、学校に努力義務として課し、国が基本計画を策定するなどの義務を負うことは、差別を助長する施策の実施を阻み、極めて小さくとも歴史を前進させるものと解釈できたためである。

他方で、この間の議論において、ジェンダーアイデンティという概念の訳語として法文に「性自認」の語を採用することで、自らの気まぐれでジェンダーアイデンティティを変更可能と定義されることになるという虚偽の言説が流布され、それに基づく議論に拍車がかかったことは、看過し難かった。そのような認識で「性自認」を位置付けること自体、既にある「性自認」に基づく制度を歪め、社会に大きな混乱や悪影響をもたらす。その他、法的効果の拡大解釈、誤謬が後を絶たず、「SOGI」で規定された条文を「LGBT」に取り違えた議論や法文の規定以上の効果に関するあり得ない仮定の議論がなされた。関係者には今一度、虚心坦懐に実際の法文やその効果、差別の実態に目を向け、誠実に議論をするよう強く要望する。

また、議論の中で噴出した差別発言も、これまで繰り返され、社会的に問題があると指摘され続けてきた内容と同趣のものが多く、極めて遺憾である。猛省を促すとともに、関係者による再発防止の徹底がなされるよう、注視していかなければならない。この課題は人権の問題である。昨今の無作為抽出の意識調査において、人々の当事者に対する嫌悪感が著しく下がり、性的マイノリティに対する差別やいじめを禁止する法律に約9割が賛成しているという結果がある。政治家がこうした社会の変化を正面から受け止めるべきである。そして、誤った主張が未だになされている現状と、そうした主張が今後、日本社会や国際社会にどのように認識されるものか、今一度省みるべきである。これらの認識については、来る国政選挙の際に、かねてから当会が取り組んできた政党・候補者アンケートにより、浮き彫りにしていきたい。

現在も、「Equality Act Japan−日本にもLGBT平等法を」には大きな賛同が寄せられ、当初の当事者団体、国際人権団体、国際的なアスリートの団体に加え、企業の賛同も広まりつつある。また、一連の運動には、司法関係者や各種団体からも支援が表明されている。IOCや在日外交官関係からも、プライド月間に併せ、性的指向や性自認による差別の禁止や平等の重要性について声が寄せられた。さらには、先般のG7においても、当事者への差別の対処が共同声明に明記され、日本においても国際公約となっている。このような運動の歴史的興隆は現時点での達成と捉えられる。全ての日本の当事者とその関係者全員にとっての到達点であり、かつ、さらなる困難解消に向けた通過点であることを、今一度、多くの当事者と実感し、噛み締めたい。その上で、当会は、性的指向・性自認による差別をなくすための運動を今後も進めていくことを改めて表明するとともに、法律の制定に向けて、今回の結果を総括し、そこから得られた洞察と経験をもとに、今後も着実に歩みを進めていく。


我々の生活と法律がとても密接なのだと、今回のアクションを通じて実感した方が多かったのではないかと思います。今後、自分たちの権利をいかに行使していくか、次の選挙において、誰に投票していくかということ、我々も共に多くの方と一緒にアクションをしていきたいと思っています。

国際社会は失望

土井香苗さん(ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表)

国際団体の立場から、日本のLGBTコミュニティを支援してまいりました。今国会でLGBT法案が成立に至らなかったことは、国際団体としても非常に遺憾、誠に残念、本当に驚いています。

五輪憲章の根本原則で「あらゆる種類の差別の禁止」、なかでも性的指向による差別の禁止が明記されているわけですが、五輪がはじまる直前にもかかわらず、法案を成立させられなかった日本の国会に対して、国際社会は失望、驚き、日本社会に対する不審を持ったというのが現実です。

今後、五輪が開催される予定で進んでいますが、五輪期間中も、国際社会からの厳しい目が日本に注がれると思います。

「多様性と調和」が五輪のキャッチコピーとして掲げられていますが、実際には、日本には多様性を認めない、非常に頑強な基盤があるということが、世界に示されたと思います。

世界では、LGBTの法律といいますと、それは「差別を禁止する法律」を指します。世界80カ国以上にあり、G7の共同声明でも、LGBTQI+に対する暴力と差別の問題について今後取り組むことが書かれています。

しかし、今回の法案は差別禁止法でさえなかったわけです。これは世界の中でもまれな、極めて効果の薄い法律でありながら、それすら通せなかった日本に対して、国際社会は厳しく見ていくと思います。

一刻も早くこのような状況からの脱却、LGBT差別を禁止する法律の一刻も早い成立が国際社会からも求められていると思います。

法律がないのは「危機」

松中権さん(プライドハウス東京代表/NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表)

今回、アメリカにベースを置くスポーツに関する情報発信をする国際NGO「アスリート・アライ」と共に、抗議文を共同で提出しました。

いろいろな声があると思いますが、プライドハウス東京としては、ただ一つ、「危機感」を持っています。

1ヶ月後には東京大会が今のところスタートするということになっています。実際にニュージーランドのトランスジェンダーの選手の出場が確定していることや、本日も、アメリカのトランスジェンダーの選手が補欠として入ったことが報じられています。今後もLGBTQの当事者の方々がどんどん決まっていくと思います。

そんな中、ネットなどでは、既にさまざまな侮蔑的な発言が広がっており、東京大会を前に、差別をなくす法律がないことは「危機」だと思います。

すぐに法律を作ってほしいという気持ちは変わりません。引き続きこのメッセージは発信しつつ、具体的にプライドハウス東京としても、東京大会に向けて、正しい、事実に基づいた情報を発信していきたいと思っています。

根深い差別や偏見「言葉も出ない」

杉山文野さん(NPO法人東京レインボープライド共同代表理事)

今回の件、本当に残念でなりません。気持ちも本当に削がれています。

少数派の権利を多数決で決めることの限界はもともと感じていた部分もありましたが、賛成する方がこれだけ増えていて、上回っていてもなお進まなかったと、これは本当に根深い差別や偏見があるのではないかと感じています。

こんな国で、どこに希望をもって当事者として生きていけばいいのかと、言葉も出ない状況です。

実は今回、法案に反対されている議員に話をしに行きました。なぜそんなに反対するのですかと聞くと、当事者に関する事実をまるで何も把握していない。むしろ当事者と話すのは初めてだというような状況にすごく危機感を覚えました。

「国民の理解が追い付いていない」「時期が早い」と仰いますけれども、自分が学ぼうともせず、自分の理解が追いついていないことを国民のせいにするのは、国民に対してとても失礼なことではないかと思います。

特にトランスジェンダーに対する無理解、差別的な発言が繰り返されている現状。逆にいうと、これだけ差別があるということが浮き彫りになったということでもあると思うので、諦めずに、これからも法律を求めていきたいと思います。

「多様性と調和」聞いて呆れる

松岡宗嗣さん(一般社団法人fair 代表理事/自民党LGBT差別発言の撤回謝罪を求める有志の会 呼びかけ人)

今回のLGBT新法をめぐっては、有志で性的指向や性自認に関する差別的取扱いの禁止の明記を求める緊急声明を出したり、自民党議員の差別発言の謝罪撤回を求める9万4千筆を超える署名を集めました。

法案提出もなし、差別発言への謝罪撤回もなし、むしろヘイトスピーチだけ撒き散らして国会が閉会という現状に、改めて強い憤りを感じています。

見せかけの「多様性と調和」という言葉が聞いて呆れます。

「差別は許されない」ということすら示せない、むしろ国会議員が定期的に差別的な発言を繰り返すようなこの国で、性的マイノリティの人権を守ることよりも、マジョリティが差別をし続けることが保護されるこの国で、差別は見て見ぬフリをされ、命が見捨てられ続けるこの国で、いま、自分の性のあり方に悩み、困難に直面している人たちは、どんな希望を持って生きていけばいいのでしょうか。

でも、この絶望的な状況に打ちひしがれている暇はありません。

今回の件で、どういう人たちが性的マイノリティの存在を平等に扱いたくないのか、差別を温存し続けたいのかが、改めて明確になりました。

もうすぐ都議選や衆院選があります。投票することが出来る人は、選挙にいって、投票によって意思を示さなければ、この現状は変わりません。

沈黙し、傍観し続けている間にも、大切な命が失われています。一人一人の行動が問われていると思います。

一刻も早く差別禁止法を

畑野とまとさん(トランスジェンダー活動家、自民党LGBT差別発言の撤回謝罪を求める有志の会 呼びかけ人)

私はこの法律が通らなくてラッキーだったと思っています。というのは、間違いなくトランスジェンダーの現在置かれている差別の現状は、LGBとは異なり、すごくキツいものがあるからです。

特に若い人たちが、ツイッター上に溢れる差別の現状を見ると、若くして自ら命を絶ってしまうような、こういう状況がずっとあります。

LGBTに関する調査で、自殺を考えたことがあると答えた割合が最も高かったのはトランスジェンダーです。この問題は、人の命がかかっています。なので、私は一刻もはやく、多くの国にある差別禁止法を通してほしいと思っています。それだけです。

野党側は「差別解消法案」を提案していましたが、自民党は最初から理解増進で「差別」という文言を入れることを嫌っていたわけです。今回のLGBT法案について超党派議連で話されたときも、ギリギリになって折衝して、(法案の目的や基本理念に)「差別は許されない」という文字が入りましたが、これも自民党はしぶしぶ入れたわけですよ。

「性自認」という言葉の件についても、誰が言い出したかというと、自民党LGBT特命委員会アドバイザーで、LGBT理解増進会の繁内氏が、自民党に対して「こんなに危険なことですよ」と言い出したわけです。自民党はそういう考えでずっとやっています。

その党につくられた法律が、まともに動くわけがない。正直、この法律が通らなかったことに対して、私は本当に安心しています。

G7の共同宣言の中でも「Gender Equality」という言葉がたくさん出てきています。G7の日本以外の国の多くに差別禁止法があります。日本には差別を禁止する法律がない。

G7のうち6カ国は同性間のパートナーシップが法的に保障されています。性別変更についても、現状、手術要件がある国はありません(アメリカは一部の州に残っていますが、アメリカ合衆国が発行するパスポートには手術要件はありません)

LGBTの人権を考えることがトレンドになっているはずなんです。にもかかわらず、差別を禁止するというたった一言を拒否する政党を、どうして許すことができるのか。

私たちが今後できることは、LGBTだけでなく、すべてのマイノリティに関して「差別はいけないことだ」と明確に声をあげてくれる政党を押していく、これしかないと思っています。

命を守る法律をつくってほしい

野村恒平さん(ろうLGBTQ活動家)

今回LGBT法案が見送られたことが、大変遺憾で残念です。こんなに悲しいことはない、もう言葉にならないほどです。

一部の自民党議員の発言によってLGBTの人たちは大変影響を受け、そして傷ついています。LGBTの聴者だけでなく、ろう者もいます。ろう者の中にもLGBTはたくさんいます。複合的なマイノリティの方もたくさんいます。

差別は許されないことだと思います。ろうLGBTの状況から、政治家や国民に伝えたいと思い、5月23日に自民党本部前に行って抗議活動をしました。全国から53名のろう者の声をあつめて、代わりに届けました。

本当にこの声は届いたのでしょうか、きっと届いたと信じていますが、オリンピックパラリンピック、そしてデフリンピックもあります。ひとりひとりの「安心安全」が大事です。

今回私たちが、みんなの命を預かってここにまいりました。命を守る法律をつくってほしい、これが私たちのお願いです。

本当はもう既にあるはずの、平等の権利を

鈴木翔子さん(レインボーさいたまの会 共同代表)

今回私たちは自民党埼玉県連に対して、LGBT新法の成立のためにお力添えいただきたいという要望書を提出いたしました。それに対して、自民党埼玉県連からは幹事長、幹事長補佐、政調会長にご対応いただき、幹事長自ら、この要望を一都三県の自民党と県連に対してお伝えしておきましょうという嬉しいお言葉をいただきました。

幹事長補佐からも「基本的人権を守ることは政治の役割である、国で進まないのであれば、県として差別禁止のための条例も必要と考えている」と、とても心強い言葉をいただきました。一昨日さっそく勉強会を開催していただきまして、県議団の方々に対して、当会役員が講師としてご用会をさせていただきました。

自民党議員の中からも声が上がっているにもかかわらず、今国会で法案が提出されなかったということをとても悲しく感じております。

ただ、私たちはまだ政治の場に希望をもっています。

少なくとも埼玉では、どのような党ということにかぎらず、非常にたくさんの議員のご協力を得て、私たちは活動ができています。

この問題は、今もうすでに共に暮らしている私たちすべての人に関わる問題だと感じています。

ふつうに暮らす幸せを、LGBTQとして生まれてきた当事者にも、少しでもはやく。本当はもう既にあるはずの私たちの平等の権利を、そのための法整備をぜひよろしくお願いします。

法律の存在意義は大きい

寺原真希子さん(弁護士/LGBT法案の今国会提出を求める、弁護士・法学者緊急声明呼びかけ人)

弁護士・法学者による緊急声明に対して、2日ちょっとで1285名もの法律家が賛同を寄せました。

弁護士、法学者というのは、法律の存在意義を職業柄、日々実感する立場にあります。

私からは性的マイノリティの方々が置かれている切実な状況について、当事者から相談を受ける立場にある弁護士としてお話をさせていただきます。

私はこれまで20年以上、弁護士として様々なご相談に対応してきました。その中で、やはり性的指向や性自認に対する差別や偏見によって職場から解雇されてしまった方、日常生活で心ない言葉を浴びせられて、外出ができなくなってしまった方、あるいは、学校でいじめにあって不登校になったお子さん、具体的な被害を目の当たりにしてきました。

差別や偏見が根深いこの日本社会の中で、いまこの瞬間も悩み苦しみながら、一日一日を必死に生きている方々が数多くいます。

彼らが求めていることは「特別扱い」ではなくて、ただ安心して学校に行き、仕事に行き、日常生活を送るということです。そのために必要なのは、「差別・偏見が許されない」ということが社会に認知されることです。そのために法律の存在意義は非常に大きいと考えています。

憲法43条は国会議員は全国民の代表であると定めてます。つまり国会議員は自らの価値観、一部の有権者の意向のみに基づいて行動するのではなく、性的マイノリティを含むすべての人が安心して暮らせるためにはどういう法制度が必要かという観点から行動すべき立場にあります。

今回差別発言をしたり、法案に反対したり、国会議員の方々には、自らの立場を改めて思い出していただき、やるべきことを速やかにやってほしいと思います。

今日から歴史は変わる

神谷悠一さん(一般社団法人LGBT法連合会 事務局長)

今日から歴史が変わるのだと、改めて思いました

LGBT法連合会が発足した6年前、小さな公民館の一室で記者会見を行いましたが、まさか6年後にこんなに多くの人たちと共に、差別をなくすための取り組みができるとは夢にも思いませんでした。このこと自体が、本当に尊いことだと思っています。

私たち当事者団体、国際人権団体、国際的なアスリートの団体、企業、経済団体、司法関係者のみなさん、各種団体のみなさんもまた、署名でもご協力をいただきました。さらにIOCから声明も出て、各大使館から応援の声も受け取ったと思っています。

壁はたしかに低くはないかもしれません。けれども、6年前に感じていた「まさかこんなに」ということが今起こっている。だからこそ、法律は、今はなかなか大変でも、こんなに支持が強く、しなやかに広がっていて、いつか本当に良い法律ができるということを、今日、私は改めて確信しました。この広い支持を胸に、私たちは取り組みを進めていかなければならないと、その責任を改めて感じました。

「Equality Act Japan:日本にもLGBT平等法を」キャンペーンに、
ぜひ署名をよろしくお願いします。 Sign Now